皆さんの施設では人工呼吸器、どのモードを使用していますか?
ここ数年、あるいはそれ以前からでしょうか
ごく一部の施設においては
・BIPAP、BiLEVEL、Duopap、Bi-vent
・APRV(Airway Pressure Release Ventilation)
・PAV+(Proportional Assist Ventilation plus)
・Recruitment Maneuver
・Smart Care
等を使用して積極的に患者状態の把握に努め、大変なご尽力を尽くされています
ですが、ではこれらをどの施設であってもやれると勘違いされては困ります
もちろん中にはAPRVでなければ管理できない症例もあるでしょう、ですがAPRVがすべてではありません
やはり
自施設あるいはそのユニットに合ったモードを使用していくべき だと思いますし、PCVをやってない施設にいきなりAPRVやRecruitmentをやれと言っても、その結果起きた事象に対して誰も責任はとれませんよね?
小学生に車を運転させて、事故が起きてしまった事に対して責任をとれるのか?といった感じです
なので“一定のレベル”に達していないのではれば、あまり過激な事はしない方がいいと思います
この“一定のレベルに達する”というのは以前の記事に記しましたが、誰か一人だけではなくそのユニットにいる人工呼吸療法に関わるスタッフ全員がという意味です
しょっぱなから話が脱線しました(笑)
今回は難しい話はしません、もっともっと基本的な部分のお話です
人工呼吸器のモードと言えば、
・VCV(Volume Control Ventilation)
・PCV(Pressure Control Ventilation)
最近はPCVが主流となっている施設も増えてきているでしょうが、日本全体で見るとやはりまだVCVで管理している施設が多い印象があります
そこでVCVとPCVって何が違うの?
そんなに変わらないんじゃないの?
PCVのメリットって何?
逆にVCVのデメリットって?
上記に関して簡潔に述べていきます
【VCVとPCVで何が違うか】
まず決定的に違う部分があります
一回換気量に対する考え方 です
VCVでは一回換気量は設定するものであって、例えば我々が患者さんを外から見てこの人は体重が50kgだから一回換気量を500mL(10mL/kg)に設定する、これが当たり前であってこうでなければいけないと思っておられる方も多いかもしれませんが、実はそうではありません
その患者さんが一体どれ位の換気量を必要としているのか?
それは患者さんのみが知り得る事であって我々には絶対に分かりませんよね?
もし患者が必要とする一回換気量よりも設定された一回換気量が多い場合には最高気道内圧が上昇しますよね?
逆に少ない場合には分時換気量をかせぐ為に呼吸回数が増えて頻呼吸となり呼吸仕事量が増えてしまうかもしれません
最近では自発呼吸の温存が重要視されていますので、一回換気量はBreath by Breathで変化しています
我々が普段呼吸をしている時を考えてみても一目瞭然です
毎呼吸、常に同じ量を吸っているのか?運動している時も睡眠中も気持ちが高ぶっている時も...
設定された一回換気量では患者の要求に合わせる事が非常に難しいのです
一回換気量を規定するVCVのメリットとして“一回換気量が保障される事”とどの本にも書いてありますが、これは逆にデメリットでもあるのです
というのは肺胞モデル、膨らみやすい健常な肺胞と膨らみにくい病的な肺胞、正常な気道と分泌物で閉塞しかかっている気道があると仮定した場合
①正常気道-健常肺胞
②正常気道-病的肺胞
③分泌物気道-健常肺胞
④分泌物気道-病的肺胞
の計4パターンが考えられますが
VCVで換気した場合はGasは入りやすい方にしかいかないので①に非常に多くのVolumeが入っていくことになります
するとどうなるのか、肺胞の過伸展が生じて肺胞を壊していきます
駄目になるのは病的肺胞ではなく健常肺胞であることに注目して下さい
つまりVCVでは健常Areaの肺胞にどんどんVolumeが入り、過伸展を引き起こし健常肺胞を壊していくのです
本当はもっといろいろ言いたい事あるのですがとりあえずこの辺で...
ではPCVにおける一回換気量とは何ぞや?ですが
ずばり“
患者状態把握の為にモニターするもの ”です(当たり前ですが)
一回換気量は設定するのもではなく“
患者さんが出したもの、患者さんから出てきたもの ”として捉える必要があります
例えば、VCVで管理していて分泌物が溜まってきた場合は気道内圧が上昇しますよね?
恐らく気道内圧上昇アラームが頻回に鳴って何かゴロゴロ異音が聞こえて、Ventilator Graphicsの呼気flow wave formが暴れてきて...分泌物かな?と...
でも一回換気量は規定されていますので分泌物があってもなくても500mLで設定されていれば500mLで変わりはありません
つまりVCVにおいて一回換気量は患者状態を反映しないのです
厳密に言えば気道内圧上限アラームが頻回に鳴れば、呼気バルブが開いて呼気に転ずるので必然的にに一回換気量低下、分時換気量低下アラームも発生しますが...
少なくとも気道内圧上限アラーム以下であれば分泌物があってもなくても一回換気量は500mLで変わりません
吸引しても500mLで設定されていれば500mLで変わりません、それ以上増える事はありません
ではPCVで管理していて分泌物が溜まってきた場合はどうなるのか?
一回換気量が減少します PCVで一回換気量が減ったあるいは増えたというのは“患者状態が変化した”という事を意味します
また一回換気量の変化は気道内圧の変化よりも鋭敏に変化しますので一回換気量を見ていった方がより早期に患者状態の変化に気付くことが可能となります
話は戻って、PCVで気道に分泌物が溜まってきた場合、例えば一回換気量が500mLだったのが350mLに下がります
ここで看護師が吸引するとどうなるのか?
一回換気量が増えていくのです
当たり前の事で何気なく述べましたが、これは非常に重要な事柄です
これはその患者さんを診ている看護師にとってモチベーションのアップになります
あなたが一回換気量の変化に気付いて吸引してくれたおかげてVolumeが入るAreaが拡がって350mLだった一回換気量が500mLに増えたんだと...
長くなりそうなんで今回はこの辺で
スポンサーサイト
2011/12/18(日) 07:28:11 |
人工呼吸療法
| トラックバック:0
| コメント:2
> VCVの一回換気量は6ml/kg以下と低くする、と参考書に書いてあったのですが、その理由がいまいち分かりません…
> 教えていただけますか?
ご存じかもしれませんが、2000年にARDS Networknが示した論文で一回換気量6mL/kgと12mL/kgで比較すると前者(6mL/kg)で換気した方が28日後死亡率を有意に低下させ、炎症性サイトカインであるIL-6の血中濃度を低下させることができたという報告があります。大きな一回換気量が不均一に分配された結果、換気されやすい健常領域の肺胞の過伸展が生じ新たに健常肺胞が障害され炎症反応亢進につながったものと考えられています。
当時は一塊換気量制限=肺保護換気戦略と呼ばれていました。但し、現在は大分考え方が変わってきています。上記の論文では“少ない一回換気量が良い”と捉えるのではなく“大きな一回換気量はよくない(12m/kg以上)”と考えるほうが良いと思います。換気量制限=肺保換気戦略ではありません。
日本呼吸療法医学会のARDSに対するガイドラインにも以下の記載があります。
一回換気量は6mL/kg以下ではなく10mL/kg以下となっています(PCVを使用する事が望ましい)
「一回換気量は10ml/kg以下に設定する。吸気終末のプラトー圧は30 cmH2O以下となるように設定する[推奨度 A Level I]。一回換気量は12ml/kg以上としてはならない。吸気終末のプラトー圧は35 cmH2Oを超えるように設定してはならない[推奨度 A Level I]。ARDS患者に対する人工呼吸器の初期設定としては原則としてVCVよりもPCVを選択したほうがよい。[推奨度 B Level I]
2015/01/01(木) 21:54:19 |
URL |
Generalist CE #-
[ 編集 ]