前回の記事の続きです
今回は侵襲時の生体反応によってもたらされる“
敗血症性ショック”はどうやって治療するのでしょう?といった部分のお話になります。
敗血症性ショックの治療戦略は“
Surviving Sepsis Campaign Guideline”にのっとって治療方法を考えていけばいいのです。
敗血症性ショックの時にまず行うべき事は何か?それはもちろん火元対策です。感染源はどこにあるのか、火元を徹底的に調べて火を消す為の治療(抗生剤、手術etc...)を開始します。これが基本です。
さらに気道確保・呼吸管理及びしっかりとした循環管理(十分な輸液、カテコラミン、輸血etc...)を行う事が非常に重要だと言えます。
“
十分な輸液”がなぜ重要なのか?
血管内Hypoの状態では感染源に行く為の抗生剤や血球成分がうまく辿り着く事が出来ません。
細い路地を大型車は通り抜ける事が出来ないのと同じイメージです。道が狭ければ通れません。
血管内に十分水を入れ、感染源に対して十分な治療が行えるだけの輸液をする事が重要だと言えます。
敗血症性ショックと診断を下してから、
6時間以内(
Early Goal-Directed Therapy)にこれらの治療をある程度完結させる必要があります
なぜ6時間以内なのか?
ぐずぐずしていると火元が拡がって燃えてなくなってしまう為です。12時間、24時間ダラダラ火元対策をしていては人間の体が燃えてなくなります。早ければ早い方が良いのです。
前置きが長くなりましたが、ここからが本題である“
エンドトキシン吸着療法(
PMX-DHP)”の話に入っていきたいと思います。PMX-DHPは火元であるエンドトキシン(グラム陰性桿菌の細胞膜を形作る物質)を吸着します。さらに様々な研究の結果、エンドトキシンだけでなく内因性大麻をも吸着する事が判明しています。
PMXはサイトカインやHMGB-1を直接吸着する訳ではありません。
が、しかしPMX-DHP前後でサイトカインは低下する事が証明されています。それはなぜか?
生体反応の上流であるエンドトキシンや内因性大麻を抑える事で野次馬であるサイトカインを抑える事が可能なのです。そして結果的に死のメディエーターであるHMGB-1も低下させる事が可能なのです。
内因性大麻は情報伝達としての役割以外にショックを起こす物質でもあります。PMX-DHPではショックを起こす物質を直接吸着するので循環動態、血行動態は改善します。
さらには肺障害、呼吸障害を起こすとされているHMGB-1を抑制することで肺酸素化能も改善させます。
但し、重要なPointがある事を忘れてはいけません。
敗血症性ショックと診断してからPMX-DHP導入までの時間が長ければ長いほど、生存率は低下します。敗血症性ショックの治療はまさに時間との勝負なのです。
PMX-DHPを施行していて個人的に気になるPointをいくつか...
①長時間PMX-DHPに関して
⇒PMX-DHP2時間施行では循環動態及び呼吸が安定しない場合に適応とされる
⇒1本のカラムの連続使用は最大24時間までとする(24時間までは安全性が担保されている)
②長時間PMXに伴う血小板数減少に関して
⇒PMX-DHPに限らず、血液浄化療法はカラムとの接触により,血小板の減少は避けて通れない.血小板の減少は施行時間に左右されるし,吸着療法では血小板の吸着も生じる為、減少度合いも大きくなる。
但し、出血傾向に関しては凝固因子の影響も考慮しなければならず,血小板減少=出血とはなり得ない。
③多臓器不全に対するPMMA-CHDFはPMX-DHPの代替となり得るのか
⇒結論をまず述べると、代替とはなり得ない。PMMA-CHDFは確かにサイトカインを吸着するが問題はその速度。3日くらい経てようやく改善がみられる訳であるがこれでは遅すぎる...6時間以内に循環を立ち上げないと火元が全身に拡がって身体は燃えてなくなってしまう...臨床的な有効性を獲得するだけのクリアランスはPMMA-CHDFでは得られない。
④グラム陽性菌に対してもPMX-DHPは有効なのか
⇒グラム陽性菌であっても内因性大麻は放出されるのでPMX-DHP施行によって循環を立ち上げる事は可能。但し、火元対策は難しいのでグラム陰性菌程の有用性はないとされている。
⑤CHDFと併用する場合は直列と並列、どちらが適しているのか?
⇒経験上、並列の方が望ましいと思われる。
直列では手前のPMXのカラムが凝固してしまった場合、Bypass回路を経由してCHDFのみ継続しようとしても時すでに遅し。hemofilterも凝固してしまっている場合が多々ある(あくまで私の経験上)。手前で2系統に分離させてPMX及びhemofilterを通過させてから再び合流させ体内に戻すほうが回路寿命も長いのではないか...
⑥間質性肺炎に対するPMX-DHPのエビデンスは存在するのか
⇒間質性肺炎に対するPMX-DHPの有効性に関するエビデンスはない。
間質性肺炎でPMXにより酸素化が改善する作用機序も不明。
PMXの有効性機序からは説明し得ないのが現状である。
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- 2012/09/17(月) 08:01:54|
- 救急・集中治療関連
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